「ファアアアッ・・・・」  俺は夢現の世界から現実の世界へと戻ってきた。少し硬くなった身体をほぐし、ついでに自慢の羽をピンと伸ばす。 そして、少し寝ぼけた頭をすっきりさせるため、そばに咲いていた花から夜露をすくい取り、顔を洗う。 「やれやれ・・・・」  俺の名前はリノ。身長は30センチくらいに、背中には羽が生えている・・・・ま、世間一般に言うところのピクシーってやつだ。  え?妖精にしては、口のきき方が乱暴だって?・・・・・まぁ、色々あるんだよ。人生長いからな。  ついでに言うと、俺は姿隠し(インヴィジビリティ)も使えないし、精霊の言葉(サイレントスピリット)も解らない。 そこら辺は訳有りって奴さ。  ここはパダの村に程近い森の中。比較的魔物も少ないと噂されていたここは、俺たちの野営にうってつけだった。 元々森の中で生活していたから野営には慣れていたが、それでも安らかな眠りを邪魔はされたくは無いからな。  っと、あいつが起きる前に、さっさと準備しとくか。俺は昨日の焚き火の跡に薪をくべると、今度は水袋からポットに水を入れて、 それを火に掛けてお湯を沸かす。その間に保存食の硬パンを火で炙り、お湯が沸いたらポットにハーブの葉を淹れてしばらく煮出す。 「フゥ・・・」  人間の身体なら簡単なことでも、俺の身体じゃ一苦労だ。結構汗だくになりながらも、俺は朝の準備を済ませて一段落ついた。 やれやれだ。水浴びでもしてすっきりとしたいところだが・・・・・ 「そろそろあいつを起こさないとなぁ・・・・・」  毎朝の事とは言え・・・・ってーか、毎朝のことだから憂鬱にもなるわけで・・・・・ 「起こさないと、いつまでも寝てるからなぁ」  俺は意を決すると、木の根元に丸まってる物体に近づいた。そして、上にかぶさっている毛布を思いっきり引っぺがす。 「起きろ!!朝だぞ!!!」  そこに現れたのは、なんとも幸せそうな寝顔をして寝ている半妖精(ハーフエルフ)が。青年と言うか、少年と言うか・・・・ 何とも不思議な表情だ。もっと言えば、男か女かも微妙なトコだが。俺がこいつと旅を始めて半年あまり。今まで一回たりとも自分で 起きたことが無い。 「おーい、起きろよ!!」 「う〜ん・・・」  顔をぺちぺちと叩くと、うっすらと目を開ける。が、こんなものじゃ起きないのは百も承知。実際、目は開けてるものの意識は夢の中だ。 「お・・・・・」 「お?」  すっと腕が伸びてくる。やばい、こいつ本格的に寝ぼけてやがる!?こんな時は碌な目にあったことが無い!! 俺は危険を感じて空に飛ぼうと・・・・ 「お慕いしてました!!」 「おわっ!?」  したのだが、それより先に胸元に抱きしめられていた。 「ちょ、おま・・・・!!」 「ようやく・・・・ようやく巡り合えたのですね!?」  成す術もなく、胸元に抱きしめられる俺。ピクシーの力じゃ、例え抱擁であっても脱出なんか出来るわけが無い。 って言うか、シャツ一枚で抱きしめられたら色々とマズイ感触が!? 「おい、イコ!!いい加減に目を覚ませ!!!」 「嫌です、もう絶対に離しません!!」 しばらくお待ちください 「あはは。ゴメンネ、リノ」 「冗談じゃないよまったく」  あれから冗談抜きで窒息しかけた頃、ようやくこいつ・・・ジュウト・イコマインは目を覚ました。 「ほら、さっさと朝飯を食って」 「うん、いつもありがと」  ・・・・・どうもこいつの微笑を見ると、今までの怒りがすーっと消えてしまう。まったく、その笑顔は反則だよ。 「今日は何処に行くんだっけ?」 「んあ?・・・ああ、今日はそろそろオランにつく頃だ。俺たちの旅も、もう終わりだな」  元々俺とイコは、オランまでという条件付で旅をともにしてきた。と言うよりも、こいつを一人で旅させるのは少々気になったんで ともに来たんだが。理由は・・・・まぁ、大体解るだろ?ぶっちゃけ、その他にも理由はあるんだが。 「えぇ〜っ、リノとお別れなの!?」 「まぁな。流石にあそこじゃ俺も奇異な存在だろうし」  よくて好事の屋敷で一生篭の中。下手すりゃ解剖されて標本扱い。誰が好き好んで大都市に行くか。 「じゃあ、僕もオランに行かない!!」  また始まった。普段は精霊語を使う魔法戦士のくせに、たまに子供みたいな駄々をこね始める。 「それじゃここまで来た意味無いだろ!!変な組織に狙われてるのを忘れたか!?」  これはマジな話。こいつは何の因果か、戦乙女とも名も無き命の精霊とも仲良しな稀有な存在。それだけに、こいつを狙う理由は 充分だ。 「でも、リノとお別れなんてヤダ!!」  あ〜もう・・・・・だから、そんな目で俺を見つめないでくれ。断れないだろうが。 「分かった分かった。オランまで着いていくよ」  頭を掻きながら俺はこいつから目を逸らす。 「本当!?やったぁ〜!!」  やれやれ。ふくれっ面が急に笑顔になった。まったく、勝てないよなぁ。 「んじゃあ、俺はそこの泉で水浴びしてくるから。それまでゆっくりしときな」  朝食の準備とこいつとの一悶着で、俺は結構汗だくになっていた。幸い、ここから目の届く範囲に泉が湧いているようだし、 さっぱりするとしようか。 「じゃあ、僕も行く!」 「は?」  そういうが早いか、こいつはさっさと服を脱ぎ捨てると、俺をがっしりと捕まえた。 「僕が身体を洗ってあげるよ」 「はいぃっ!?」  唐突に身体の自由を奪われ、俺は焦りまくる。だから、胸元に抱かれたら、色々感触がマズイんだって!! 「ちょっと待てぇ!!何故一緒に入るんだ!?」 「別に男同士だからいいじゃん」 「だから、少しは自分の身体のことを理解しろぉ!!!!」 しばらくお待ちください 「忘れ物は無いな?」 「うん、行こう!!」  旅装束に着替えたイコの横で、俺はぐったりとしていた。本当に疲れる・・・・・・ 「よし。じゃあ行こうか」  俺はイコのウェストポーチの中に隠れる。ここが、俺の唯一安らげる場所だ。昼間の街道は、なかなか煩いしな。 「ま、ここまで来たら最後まで面倒見てやるか」   この二人の冒険は、まだまだ続きそうである。